ブログ説明

株式会社フルハシ環境総合研究所による環境問題、環境経営に関する提言・オピニオン発信を目的としたサイトです。

2014年3月31日月曜日

4.環境経営イノベーション論(3)

「環境経営イノベーション論(3)」


■企業の生物多様性取組み
今回はトップリーダーが方針を定め、そこから具体的な取組みに展開されていく事例を、生物多様性をテーマに考えてみたい。
2004年にISO14001が改正され生物多様性が言及されて以降、企業での生物多様性取組みは徐々に進展してきた。2005年には鹿島建設が生態系保全行動指針を策定し、2007年に積水ハウスが「木材調達ガイドライン」を策定、さらに2008年にトヨタ自動車が「生物多様性ガイドライン」を策定。以後、数多くの企業が生物多様性に関する方針を策定し、その方針に従って生物多様性の活動が大幅に進展してきた。

■積水ハウスの事例
積水ハウスは1999年に「環境未来宣言」を出し、次いで2005年にはバックキャスティング手法(前号参照)に共感して「サステナビリティ宣言」が出され、環境が商売にならない時代からトップリーダーによる環境経営への牽引がなされてきた。
生物多様性については2つの象徴的な取組みが行われている。ひとつは住宅メーカーとして、在来種を中心とした造園緑化をする「5本の樹」計画。もう一つは建築部材である木材の調達ガイドラインの策定である。
「5本の樹」計画とは、「3本は鳥のために、2本は蝶のために。地域に合わせた日本の在来樹種を」というスローガンのもとに、住宅の庭をデザインするものである。2006年にはビジネスモデルが評価され、グッドデザイン賞を受賞しており、生物多様性の取組みが事業の中で付加価値を生み出している。
一方、「木材調達ガイドライン」は「違法伐採の可能性が低い地域から産出された木材」、「木廃材を原料とした木質建材」など、10項目の指針で構成されており、各項目について採点し、点数の低い木材製品から順次切替えや代替品の開発に取り組んでいる。

■環境経営のイノベーションは社会課題の解決
積水ハウスの生物多様性の取組みは、具体的に自然環境(生態系)が改善の方向に向かうものであり、さらに多くの市民・企業に対して意識や価値観の変化を引き起こすものである。環境経営のイノベーションを垣間見ることがでるのではないだろうか。トップリーダーの方針から取組み・活動を経由して、社会課題の解決につなげていくのは、まさにCSVの概念そのものであり、環境経営はその重要な一角を担っている。次回は、環境経営のイノベーションについて、まとめてみたい。

※参考文献:
「企業が取り組む「生物多様性」入門(足立直樹監修/日本能率協会マネジメントセンター)」
「日経エコロジー 177号 2014年3月号(日経BP社)」

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2014年3月24日月曜日

3.「環境経営イノベーション論(2)」

「環境経営イノベーション論(2)」

■環境経営の目指すところ

環境経営が目指すところは、持続可能な社会を構築することである。今回はその目標設定(ビジョン)について考えてみたい。
例えば、2050年の「持続可能な社会」をさまざまな予測データをもとに想像する。その未来における「自社のあるべき姿」を定義し、そこから中長期的な目標設定を導く。これは「バックキャスティング※」といわれる手法である。一方、現状分析や現状課題から目標設定をすることをフォアキャスティングと言い、この手法は短期的な成功を導くために有効である。どちらか一方の手法に偏らず、両方を上手に使い分けることで長期的にも短期的にも環境経営を成功させることが可能になる。

※バックキャスティング:スウェーデンの環境NGO「ナチュラルステップ」が
提唱した考え方
http://www.thenaturalstep.org/ja/japan/backcasting-japan)。

■バックキャスティング事例

では、バックキャスティング手法の具体的な事例を挙げて見てみよう。
リコーグループは、2050年に排出する環境負荷の総量を2000年比1/8にするために、中・長期行動目標・計画が策定されている。その数値を決めた根拠は、「地球全体にわたる大規模な被害を避けるためには先進国が2050年に環境負荷を2000年比の1/8以下にする必要がある」と想定されている。

■環境経営は、トップダウンとボトムアップの連動が大事

一見すると、バックキャスティング手法から導く目標は、現実離れした大きな目標に見えることが少なくない。だからこそ、このような目標設定にはトップリーダー(経営者)の関与が欠かせない。トップリーダー自らが従業員にしつこく語り、号令を出していただきたい。従業員全員が同じ方針に沿って行動することで、大きな成果が得られるはずだ。

担当部署としてはこの号令を出してもらうようにトップに働きかけることが重要な任務となる。普遍的な理念や高い目標をトップリーダーが打ち出し、それを言い続けることで従業員の活動(ボトムアップ)とそれに伴う成果を引き出すことができる。

トップリーダーによるコミットメントは環境経営をイノベーションするための重要な条件である。そして、まさにそれが今、企業の生物多様性の取組みで起こっているのではないだろうか。次回、その具体的事例を紹介したい。

※参考文献:
「環境経営イノベーションの理論と実践(植田和弘・國部克彦/中央経済社)」


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2014年3月9日日曜日

2.「環境経営イノベーション論(1)」


■環境経営はもう古い?

 私たちが日頃実践している廃棄物の分別や省エネなどの環境活動は日々改善・革新を加えながら地道に行われている一方で、環境活動はCSRに組み込まれ、最近ではCSV(※) という概念の中に組み込まれるようになった。環境報告書がCSRレポート、統合報告書へと移行しているように、企業の環境経営は、過去の一時期に形成されたもので、もう古い取組み・概念になってしまったのだろうか。

※CSV:Creating Shared Valueの略。企業利益と社会の利益を同時に最大化する共有価値として注目されている新たな経営理念。戦略的CSRの一種として、国内外の企業が注目している。

■「環境経営」を検索してみると…

 103社の環境・CSR報告書などをデータベースとして収納している日経エコロジー「環境・CSR報告書大全2014」を検索してみたところ、「環境経営」を報告書の中で使っているのは70社、1,019ヵ所だった。「CSR」は3,000ヵ所以上(データベースの検索限界を超えて計測不能)。「CSV」は、16社、85ヵ所だった。環境経営はCSRの概念の下、行われているのが主流のようだ。

■環境問題は解決しつつあると言えるのか

 しかし一方で、私が危惧しているのは、環境問題は、依然、解決の見通しが立っていない分野が多いにも関わらず、統合化・合理化のなかで取組みが軽視されてしまっていないだろうかということだ。次回は具体的な環境取組みのテーマから環境経営の進捗を確認してみよう。


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2014年3月4日火曜日

1.外部不経済を斬る!

■環境汚染とその費用負担

環境汚染とその費用負担について考えてみたい。
企業の環境汚染は法規制により厳しく管理され、公害問題はほとんど発生しな
くなった。その中で、日本史上最悪の公害問題が現在進行形で進んでいるのは
東京電力福島第一原子力発電所から発生している放射能汚染だ。今回取り上げ
たいのは、環境汚染とその費用負担についてである。

■外部不経済の内部化

企業活動の中で環境対策の費用は当然、内部化されている。例えば、排水は、
水質基準を管理し、規制以下にして排出する。ところが、汚染物質はゼロでは
ない。排水量が、基準以下でも大量に排水すれば、当然ながら汚染物質量も増
える。排水を放流した河川から上水が取水されている場合、飲料水レベルまで
水質を浄化するコストは誰が負担をしているのか?そこには税金が使われてい
るのだ。

■放射能汚染の外部不経済は、誰が負担するのか

メディアでも繰り返し報道されているように、原発は廃棄物の処理方法も費用
もまったく目処が立っていない上に、放射能汚染の対策費用や被害者に対する
補償費、その他これまで電力コストとして計上されていなかったコストを加味
すると、コストの高い電力であることは明らかだ。「原発のコスト(大島堅一
/岩波新書)」によると政府の補助金支出等も加味した原発のコストは10.68
円/kWで政府が引用する発電単価(5.3円/kW)の倍以上という試算がされて
いる。大事なのは、原発の電力が見た目上、安く見えるのは、実際にかかって
いる費用の多くが外部不経済となっているためだ。これを内部化したときに、
本当に安い電源と言えるのだろうか。

■環境汚染・環境負荷の内部化

環境汚染・環境負荷を外部不経済のまま放置すると、公害が発生しやすくなる。
過去には、川崎・四日市・尼崎喘息や水俣病等があり、現在では、放射能汚染
が私たち自身に牙を向いている。もう一度、環境汚染・環境負荷の内部化を制
度設計の中に組み込むことを真剣に考えなければならない。


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